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赤い蝋燭と人魚

Art Baboo 146 2周年記念特別展覧会『146 BEST OF ONE MAN SHOW』にて豆本の制作と原画展示をいたしました。

 

 

 月の明るい晩のことであります。娘は、独り波の音を聞きながら、身の行末ゆくすえを思うて悲しんでいました。波の音を聞いていると、何となく遠くの方で、自分を呼んでいるものがあるような気がしましたので、窓から、外を覗いて見ました。けれど、ただ青い青い海の上に月の光りが、はてしなく照らしているばかりでありました。

 娘は、また、坐って、蝋燭に絵を描いていました。するとこの時、表の方が騒がしかったのです。いつかの香具師が、いよいよその夜娘を連れに来たのです。大きな鉄格子のはまった四角な箱を車に乗せて来ました。その箱の中には、曾かつて虎や、獅子や、豹などを入れたことがあるのです。

 このやさしい人魚も、やはり海の中の獣物だというので、虎や、獅子と同じように取扱おうとするのであります。もし、この箱を娘が見たら、どんなに魂消たまげたでありましょう。

 娘は、それとも知らずに、下を向いて絵を描いていました。其処そこへ、お爺さんとお婆さんとが入って来て、

「さあ、お前は行くのだ」と、言って連れ出そうとしました。

 娘は、手に持っている蝋燭に、せき立てられるので絵を描くことが出来ずに、それをみんな赤く塗ってしまいました。

 娘は、赤い蝋燭を自分の悲しい思い出の記念かたみに、二三本残して行ってしまったのです。